きこりのふしぎ
むかしから、山には、たくさんのふしぎなことが、ありました。いまではすっかり、聞くこともはなすことも、なくなりましたけれど。頭がふたつあるへびや、追いかけてくる山んばや、山奥の小さな家にすんでいるおばあさん(そのしょうたいは化け猫)、だれもいないはずなのに聞こえてくる木をきる音。
むかしばなしの、本の中に書かれているようなことは、ほんとうのことではないと、ばかにする人もいます。でも、化け猫はともかく、いまでも山に入ると、なぜかふしぎなことが、起こるものなのです。
これは、知り合いの、きこりのおじさんから聞いたはなしです。
おじさんは、ある朝、山に入ってから、ヘルメットをわすれてきたことに、気がつきました。その日は、木をきることも少ない。まあいいかと、そのままつづけました。
さて、お昼になってお弁当箱をあけると、中がからっぽです。変だなあと思いながら、家まで取りにかえると、奥さんが用意していたお弁当はありました。でも、こんどはヘルメットが、いつもの場所にありません。しかたなく、山にもどってみると、ヘルメットは、道具のそばにきちんと置いてありました。おじさんは、首をかしげながらも、お弁当を食べ、作業をつづけました。そして、
「ミーン」
「ガッ」
「ズドーン!」
目の前の木が、とつぜんたおれてきたのです。かぶっていたヘルメットをたたくようにして。あと少しで、下じきになるか、頭がわれていたのだそうです。
もうひとつ。山で木を切っていて、なくなった方がいました。そのげんばを、見にいったきこりさんから、聞いたはなしです。
まわりには、すでに切られた木がたくさんありました。それがぜんぶ、ふつうでは、たおれないような向きに、たおれていたというのです。そうしようとしても、なかなかできない方向に。なぜそうなったのか、わかりません。「山の神さまがやったとしか思えない」と、その人はいっておられました。
でも、どうしてそうなってしまったのか、やっぱりよくわからないのです。
わすれて、さがしてもないと思っていたら、ひょっこり出てきたヘルメット。へんなたおれかたの木。ふしぎなことは、むかしもいまも、かわらず起きています。
あなたは、どう思いますか。
大人のための きこりの不思議
先にあげた体験談は、2人から3人の方から聞いたものを組み合わせて、ひとつにしたものです。山ではよくあることなのだともいえます。
全国に残る山人の言い伝えとして、「山に置いて帰った道具が、翌日に散らかっていたら、その日は仕事をせずに帰ること」という決め事がありました。また、「リスが目の前を横切る」「鳥がついてくるように鳴き続ける」など、その日は仕事をしてはいけない予兆の言い伝えも、多く残っています。一方で、そうした予兆があるときは、「家にいったん戻って出直せばいい」とも言います。
山でとる弁当は、「飯一粒でもいいから、必ず残しておく」という言い伝えもあります。ヘルメットの話と、どこか関係があるようで、興味深いですね。
ある大木をチェーンソーで切ろうとしたとき、急に力が入らなくなってしまう。それでもと無理に踏ん張って進めていたら、今度はエンジンが止まってしまい、なかなかかからない。これも、似た話がたくさんあるようです。
これらは「怪異」「不思議」というよりは、何かを私たちに教えようとしているようです。
山の神さまについても、ひとつ。ある林業のシンポジウムで、会場から「山の神さまは、まつったほうがいいのか」という質問がありました。講師の方は、「私はまつっています。山仕事の前には必ずお祈りします」と言われたあとに、「でもみなさんは、まつらなくてもいいんですよ」と言われました。つづけて、
「ただね、山で木を切るのなら、感謝して頭をさげて入ってください。神さまでなくてもいいから」
そのとき、会場がしーんと静まりかえったことを、よく覚えています。







